猫とわたし
ずっと書こうと思っていた、2週間以上前の日記。(長文です)

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地元のカフェで午後いっぱいかけて、猫沢エミさんの「猫と生きる。」を読む。

ほんの数日前、わたしは1年半余に及ぶ単行本の執筆作業から解放され、しばらくぶりに重しのないハレバレとした気分を味わっていた。まるで刑期を終えて出てきたばかりの服役囚のように。あーーシャバの空気は美味しいっ!
冒頭の本はまさにその刑期……もとい、校了明けの翌日に足をはこんだ、伴田良輔さん×猫沢エミさんの猫トークショーで購入した1冊。

1年半もの間、人づきあいを極限までしぼりこみ、ひたすら引きこもっていたわたしの唯一の楽しみは、近所を徘徊するノラ猫を眺めることだった。裏の猫好きオバサンがノラ猫に餌付けをしているため、わが家周辺は猫の園になっているのだ。日々、彼らを見ているうちに、猫の生態に詳しくなった。うちのベランダで猫が出産したことも、数度ある(1匹は知り合いのデザイナーさんが引き取ってくれた)。わたしが「ふつうの人」から「筋金入りの猫好き」になるまでには、さして時間はかからなかった。


アイスチャイを飲みながら、ガラス越しのやわらかな光の下で本を開く。



最初のページを開くと、そこには猫沢さんのミュージシャンデビュー前夜のストーリーが書かれていた。彼女の名前の由来、可哀相な捨てられ方をしていた初代の猫ちゃんとの出会い。彼女の人生と猫たちのそれとが交錯し、さまざまな起伏を描きながら、現在へと続いてゆく。フランスの猫事情は、日本のそれとは全然ちがうこともわかった(猫を飼うには、日本はそうとう息苦しい国だ)。随所でグッときて、涙。

読む前に抱いていた「きっと猫づくしな本なんだろう」という予想は、いい意味で裏切られた。これは仕事、恋愛、好きなことをしながらどうやって生きていくか、などなど、自分にとってもものすごく身につまされる、ノラ猫のように生きる女の人生本でもあったのだ(もちろん猫愛もありつつ!)。読めば生きる力が沸いてくる。芸で身を立てている女性には、特にオススメしたい。

読みながら、私は1匹の猫を思い出していた。

単行本の執筆が9合目あたりを迎えた頃、季節は夏にさしかかっていた。
1匹の見慣れない猫が、わが家を横切った。その猫は背骨とあばらがはっきりと見えるほどに痩せていて、栄養不足のせいで長い毛がバサバサだった。1歳になるかどうかの、繊細な顔をした男の子。そこが定位置なのか、彼は2軒先の家の車の下に潜りこみ、じっとしていた。ミルクをお皿に入れて差し出すとそっと近づき、小さな舌をチロチロと出して飲んでくれた。

翌日わたしは猫フードを買いに走り、その後、彼がわが家に通いデートしに来る日々がはじまった。
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だいたい昼下がりから夕方の間に、彼は現れる。

「そろそろ来る頃かな」と階下に降りていくと、玄関の網戸越しにスリムな白茶のシルエットが見える。ハチ公のようにちょこんと座って待つ姿が愛らしい。姿がないときでも、呼べばすぐに飛んできた。

奥でミルクとご飯の準備をしている間、彼は般若のような顔をして、早く早く!と急かした。生まれつき肺が悪いのか、はたまた猫風邪をひいているのか、彼は声を出すことができなかった。ご飯はよろこんで食べてくれるが、食は細く、満腹になるとゼイゼイと息をする。そしてゼイゼイがいつしかゴロゴロという音に変わる頃、足下にそっとすり寄ってくるのだ。そこでひととおり撫で回したり話しかけたりしていると、彼は安心したようにうずくまり、食後のまどろみタイムに突入するのだった。

わたしは家の中の階段に腰かけて、網戸越しにそんな彼を眺めるのが好きだった。

彼をチョビと名付けた。
チョビはそのうち、わたしがまだ寝ている早朝にも来るようになり、母や妹からご飯をもらっていたようだ。シーサーよろしく、わが家の門柱の上に座っていたこともある。まるで「ここが自分の家だ」と決めたかのように。

猫用ミルクや栄養フードを与えているうち、彼は目に見えて元気になっていった。バサバサだった毛にはツヤが出て、目には光が宿り、最初の不安げな顔つきから生命力のある表情になった。

ある日のこと。
いつものように遊びに来たチョビは、それまでにないほど穏やかで可愛らしい空気をまとっていた。明らかにこちらに心を許しているのがわかる。「お姉ちゃん、好きだよ~」という声が聴こえてくるようだ。その日、彼はいつにも増して長い時間、玄関前に座っていた。



それが彼と過ごした最後だった。


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ある週末、用事が重なって、わたしは家を2~3日空けることになった。
母曰くチョビは留守の間も来ていたようだったが、わたしがいないことがわかると、ご飯をもらってすぐにどこかに消えたようだ。

それから、チョビはわが家にさっぱり来なくなってしまった。

私の姿が数日見えなかったことで、見捨てられたと思ってしまったのだろうか。
運の悪いことに、その週末を境にあの猛暑がやってきた。食べ物をあげなければ、彼は弱ってしまう。いや食べ物を食べようが食べるまいが、この暑さに小さな動物が耐えることは、かなり厳しいだろう。ましてやチョビは普通の猫とは体力がちがうのだ。

1週間ほどたった早朝、妹が近所の塀の上にいる彼の姿を見かけたらしい。が、呼んでもボーッとして動かなかったそうだ。
その翌日は、例の車の下にいるのを見つけた。ご飯を入れたお皿を見せたが、どんよりした目をするばかりで反応がない。以前ならすぐに近寄ってきたのに。やはり気候のせいで弱ってしまったのだろうか……。


そしてチョビはぷっつりと姿を消した。

あのとき無理矢理にでもつかまえて、獣医に連れて行った方がよかったのかもしれない。

家族が家の中に猫を入れるのをイヤがること、それを説得すること、たった1人で獣医まで連れていくこと、そんな諸々に自信がなく、迷っているうちにチョビはどこかへ消えてしまった。

しばらくは自分の不甲斐なさに打ちのめされていた。
飼えないくせに中途ハンパに可愛がらない方がよかったんじゃないか。期待を持たせて、突き放すようなことをしてしまった。でも飼えないからといって、痩せたフラフラの猫を放っておいていいのか。もっと自分に経済力と時間があれば、云々……今となっては、どれも虚しい言い訳にすぎない。

今でも彼の顔を思い出すと、胸が痛む。

そのうちひょっこりまた顔を出すんじゃないか、なんて都合のいい期待をしながら、夏の淡い思い出を噛みしめている。
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by aomisa | 2013-09-27 05:12 |
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