人気ブログランキング | 話題のタグを見る
バルテュスとイオネスコ
5月末にバルテュス展、見てきました。
バルテュスとイオネスコ_a0034031_2313499.jpg

「少女性愛の画家」なんて言われているけれど、本当のところはどうなのか。
バルテュス本人は否定している。
「私は少女に邪悪な欲望を抱いたことはない。少女時代の特殊な美しさを、ただ画布に留めたいだけなんだ!」(意訳)

動機はどうであれ、バルテュスの少女に対する執着心は世界でも指折りレベルだと思う。
バルテュスとイオネスコ_a0034031_2355446.jpg

女性の美に執着しているわりに、バルテュスの絵に出てくる女性の顔はあんまりキレイじゃない。白目をむいてたり、憂鬱そうにしてたり、固く無表情だったり…。どことなくデッサンもおかしくて、欠陥品の操り人形のよう。見る者を不安の淵に引きずりこむような絵だ。
バルテュスとイオネスコ_a0034031_256126.jpg

バルテュスとイオネスコ_a0034031_2314011.jpg

ところが後期になってくると、同じヌードでもあたたかく開放的なムードが漂うようになる。

心身の状態が、ストレートに絵に反映されているなぁと思う。
バルテュスとイオネスコ_a0034031_16393537.jpg

初期のバルテュスはまだ無名でお金もなく、恋愛もうまくいっておらず(失恋して自殺未遂したりしている)、カラダもそんなに強くなかったらしいから、ものすごく不安定な状態だったのでしょう。絵全体から腺病質な気配がプンプン漂っている。カラダが緊張しているとデッサンが変になるのは、私も痛いほど経験しているし(笑)

当時、「彼の絵からは疫病やペストの匂いがする」などと評されていたらしいから(ひどいけど、ものすごく的確な表現!)、結婚して有名になったのちは、いろんな意味で余裕が出てきたのではないかな。

…などと、ついつい身体性にからめて考えてみたり。


さらに先月は似たような主題の映画「ヴィオレッタ」を鑑賞。




売れない画家の母はあるときから写真家に転向し、自分の娘をモデルにエロティックな世界を表現するようになる。センセーショナルな写真で母娘は一躍有名になり、「芸術」という名のもと、母の表現欲と娘に対する要求はどんどんエスカレートしていく……

バルテュスとイオネスコ_a0034031_16472368.jpg

この映画では、モデルを努めていたエヴァ・イオネスコ自らが監督をつとめているわけですが、彼女にとって少女時代の苦痛な経験を映画にすることは、一種のセラピーだったのでしょう。

詳しくはインタビューを。



それにしても、「少女」という存在はやっかいだ。

本人の思惑とはまったく別のところで、価値が決められ欲望が生まれ、ともすれば人生の方向が定まってしまう。
バルテュスとイオネスコ_a0034031_17455796.jpg
これは映画「プリティ・ベビー」のブルック・シールズ

ある程度大人になれば、自分がどう見られているかは自覚するものだけれど、ほんの数年前まで裸で走り回っていたような9歳や10歳の娘に、自分の価値を自覚しろというのは無理な相談だ。
自分の価値をまるで自覚していない無垢さ、とらわれなさ、瑞々しさにこそ、少女の魅力は宿る。バルテュスもイリナ・イオネスコも、そんな少女を表現することによって自分をモデルと同化させ、開放感を味わいたかったのではないかな。

特にバルテュスは生涯にわたって猫も愛している。
猫と少女の魅力は、ほぼ同質だ。自由で自堕落で生き生きとしていて、生き物としてはつたないと同時に、悪魔的なものを秘めた存在。
バルテュスとイオネスコ_a0034031_17263965.jpg

もし私が写真家で美しい娘がいたとしたら、イオネスコのように娘を妖艶なミューズに仕立てあげて、作品を撮る誘惑に打ち勝てないかもしれない。人に見せるか見せないかは別としても。いや、すばらしい作品ができちゃったら、人に見せずにはいられないだろう。そしてそれが世間で評価されたら、ますますのめり込むだろう。

やはり妖しい女性美に魅せられ、20年以上エロティックな絵を描いている身としては、彼らの行動は他人事ではないのであった。

追記:と同時に、そんな欲望むきだしにした大人たちへの嫌悪感ももちろん私の中にあるので、この手の作品を観ると、自分の中の男の目と女の目、大人の目と子どもの目がメビウスの輪のようにグルグルと回り、自家中毒を起こすのであった。
by aomisa | 2014-06-13 17:50 | 映画・アート・音楽・本
<< その後のセラピー道(その6) その後のセラピー道(その5) >>



イラストレーター・アオノミサコのBlog
by aomisa
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31
★月刊PHPにて猫の漫画とショートエッセイ連載中

★LAURIER PRESSにて女子向け漫画&コラム執筆中

★LINEスタンプ「きまぐれデビルちゃん」発売中!


★コミックエッセイ「五感ゆるゆる わがままセラピー入門」発売中


紙媒体・Webなどでイラストや文章、漫画などを描いてます。

日々の雑感。ホリスティックな生活。美容。猫。読書・音楽・映画・アート感想記。お仕事の告知 etc

★メインサイト aonomisako.com
★twitter @misakoao
★別ブログ
鏡の国のタロット

※本ブログのイラストの無断使用を禁止します。イラストの著作権は作者に帰属します。(ブログで記事として取り上げていただくぶんには、OKです)

カテゴリ
映画・アート・音楽・本
サーフィン
宇宙トーク
美容・健康トーク

Girls! Girls! Girls!
キラ☆キラ
お仕事情報
日記
つぶや記
さまよい記
プロフィール
その他
以前の記事
2019年 08月
2018年 12月
2018年 11月
2018年 08月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 02月
2017年 03月
2016年 12月
2016年 09月
more...
フォロー中のブログ
その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧